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2017/06/22  東京

美術家・岩崎貴宏さん

超絶技巧のアート作品を支える「ロックタイト」

タオルや歯ブラシ、ときにはゴミなど(!)身近なものを使って緻密過ぎる作品を生み出す岩崎貴宏さん。その超絶技巧の作品を長期展示したり、安心して輸送するには高品質な接着剤が欠かせないそう。そんな岩崎さんが活動初期からロックタイトを愛用しているということで、接着剤にまつわる話、そしてアートの楽しみ方などについてお話を伺いました。

―どの作品にロックタイトをお使いいただいているのですか。

僕のシリーズには、木の模型で作る「リフレクション・モデル」と、布とか日用品を使って作る「アウト・オブ・ディスオーダー」の主に2つありまして、ロックタイトの瞬間接着剤を使うのは主に後者です。作家活動を始めてから7~8年ずっとヘンケルさんのものを使っています。

― ありがとうございます。ロックタイトを選んでいただいた理由は? 

恥ずかしい話なのですが、活動初期はお金もなくて、そういうところから素材に日用品を使うようになったのですが、瞬間接着剤も100円ショップで買ったりしていたんです。あるとき、アメリカに住んでいるコレクターの方が僕の作品を買ってくださって、それを輸送したら何個か部品が落ちていたらしく、「岩崎さんの作品の性質はすごく面白いけど、外れるとかはマイナスになるから、そういう側面を技術的にアップしたほうがいいよ」と教えていただいたんです。

素材として、布とかは100円で買おうが1000円で買おうが、物は同じでしょうけど、裏で技術を支えるようなものは良いものを使わないと、長い時間や輸送とかには耐えられないんだなと。そこだけはちゃんとしたものを使おうと考えて、幾つか試した中でロックタイトが気に入りました。しっかり留まるし、粘度もちょうど良くて、気持ちよく使わせてもらっています。「瞬間接着剤」という名前も好きです。瞬間でイメージが立ち上がっていくというか、時間を凍結させることができる媒体というのはすごいなと思います。

― ロックタイトのどのアイテムをお使いですか? 

20gのボトルがあるじゃないですか。小さなチューブじゃないやつ。これが大好きで、最近はこればかり使っています。いつも近所のホームセンターで買います。ほぼ無臭なのがありがたいです。瞬間接着剤には刺激臭の強いものがあって、臭いがきついと頭が痛くなってしんどくなるので。

― 作品のどの部分に、どのようにロックタイトを使っているのですか?

まず、糸を引っ張り出して、直線状に強く伸ばして、そこに液体状の接着剤をしみ込ませてまっすぐに固めます。それをロックタイトで組み上げていきます。紙の上にポチョッと水滴ぐらいの量を出して、パーツをその水滴にチョンチョンとつけるんです。擬音ばかりですみません(笑)。ボディに直接塗らず、それで最小限につけます。

― どんな接着剤があったらいいなと思いますか?

白化現象をさらに抑える接着剤でしょうか。今も、黒い素材以外はほぼ目立たないのですが、黒はどういう状況に置けば一番白化しないのか、いまひとつコントロールできないです。僕の作品は鉄塔やクレーンとかワイヤーフレーム状のものなので、始まりと終わりのところを点づけでくっつけるんです。きれいに仕上げるには、点づけした部分の強度と、白化しないということがかなり重要になってきます。

― アートの楽しみ方。

人が見て、何か伝わった瞬間に、人の顔がほころぶじゃないですか。靴下があると思って見たら、五重塔があって、「あれ、なんで? あ、ひょっとして、岩の上に五重塔がひょいと乗ってるような小さな風景にしてるってこと?(笑)」みたいな。その顔の表情が変化するのはうれしい感じがします。最初、何だろうって不思議そうな顔をしているのが、ハッと電球がついた感じになって、クスッと笑って、それで「これ見て、見て」って人に伝えたがるような。その一連の中にある「視点が変わる瞬間」が面白いなと。僕もアートでよくそういう体験をさせてもらっているので、人にもしてもらいたいなと。そんな等身大でアートが楽しめたらいいですよね。

― ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(※)で開催中の個展「逆さにすれば、森」のタイトルに込めた思いは? 

ヴェネチアは干潟にできた都市で、下に何億本もの木の杭を打ち込んで、その上に石を積んで都市を作っているんです。表は石畳で、裏側には静かな森がある。イタリアの詩人ティツィアーノが“これがグルッとひっくり返ったら森がある”とうたっているのですが、それが想像を絶するというか、イメージが広がりますよね。1つの作品を見上げたり見下ろしたりすることで、だまし絵のように、見るタイミングや位置によって物事が違って見えるという体験をしてほしいと思います。
※ イタリア・ヴェネチアで2年に一度開催される現代アートの世界的祭典。今年5月13日から11月26日まで開催中。

― 今後について。

ありがたいことにヴェネチアまで行かせてもらったので、これがひと段落したらまた違うシリーズを試したいと思っています。20代で「リフレクション・モデル」をやって、30代で「アウト・オブ・ディスオーダー」を始めてから海外に呼ばれることが一気に増えて、いろいろと世界を旅させてもらいました。40歳になったばかりなので、また10年続けられるような、新しくて面白いことをやりたいですね。


岩崎貴宏氏 プロフィール

1975年広島県生まれ。広島市立大学芸術学研究科博士課程修了。エジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院修了。代表作シリーズに「リフレクション・モデル」と「アウト・オブ・ディスオーダー」がある。2017年ヴェネチア・ビエンナーレ出展作家に選出。

※ 写真奥は「リフレクション・モデル」。一見 、宇宙船に見えるが古い建物が池に反射している部分も作った 木 製 模 型 シ リーズ 。

「アウト・オブ・ディスオーダー(薮)、2015」撮影: 村田冬実

鉄塔は1〜2日で作る。鉄塔制作より、気に入るタオルとかに出会うほうに時間がかかるそう。「使った感じが欲しいので、蚤の市とかに探しに行きます(岩崎さん)」 「アウト・オブ・ディスオーダー(コンプレックス)、2009

奥にあるのがロックタイトの瞬間接着剤。

初期の鉄塔(貴重!)にもロックタイト。

黒い靴下の糸をほどき、接着剤を使って五重塔と松の木を作った作品。靴下が転がっているようでいて、よく見たら五重塔や松の木があるので、靴下が岩に見えてくる。室町時代の水墨画家・雪舟に喚起された作品だそう。「アウト・オブ・ディスオーダー(靴下)、2009」撮影: WeAreTape

素材はなんと髪の毛とホコリ!「アウト・オブ・ディスオーダー(コスモワールド)、2011」横浜美術館蔵